日本には、およそ31万人の視覚障がい者がいると言われています。歩行訓練と聞くと、足の不自由な方や脳の病気など歩行困難な方へのケアと思われる方も多いかもしれませんね。しかし、視覚に障がいのある方にとっても、重要な訓練といえます。
視覚情報が乏しい分、情報を得ながら安全に歩行することが、先天視覚障がい者や中途視覚障碍者にとってとっても重要だからです。そこで今回は、視覚障がい者の安全な歩行をサポートしてくれる歩行訓練士にフォーカスしてみたいと思います。
歩行訓練士が活躍できる現場とは?
歩行訓練士が活躍できる現場は、リハビリ施設・生活・職業訓練施設、各地の福祉センターなどがあります。
いち早く社会復帰できるよう、あらゆるタイプの施設で歩行訓練は行われています。もともと視力に障がいがあり歩行感覚がある程度つかめている方や、中途で障がいを負ってしまった方など、その方の状態によって訓練期間や訓練内容も変わってきます。
わたしがかつてお世話になった訓練施設では、まず視力のあるなしや先天的障がいや後天的な障がいにかかわらず、10日間歩行の状態やTDL(身辺管理、調理、日常機器の使用、家事管理)などのチェックを行います。その後、中途障がいの方など今後の状況を踏まえて訓練を行っていました。
訓練期間は3か月から1年程度で、歩行訓練を含めた生活訓練全般を職業訓練に移行する流れとなっていたようです。この機関では歩行訓練をはじめ、生活訓練士らが連携して、一人でも安心して暮らしていけるようプログラムが組まれているようでした。
次の章では、歩行訓練士の訓練内容について見てみましょう。
訓練内容
視力に障がいがある方への歩行訓練は、単に「歩く」だけではありません。「生活訓練」や「視覚的な情報提供」も重要となります。
Aさんの場合
以前、ピアサポートでお話をお聞きした方は、もともと弱視の方で視力があるころは結構動けていたそうです。しかし、全盲になり紆余曲折あっておひとりで生活することになってしまったそうなんですね。その住まいは、お子さん方が決めた住まいらしく、ご本人はお部屋の環境確認が不十分だったらしくドアが見つけられず悲しくて「死にたい」とまで思ったそうです。大げさだと思いますか?
視覚情報がない(乏しい)と本当にそこまで追い込まれてしまうんです。
ですから、単に安全に歩くという訓練だけでなく、生活のための環境確認や視覚的な情報提供や、周りの方とのコミュニケーションが非常に重要となります。
支援者はずっと一緒にはいられません。ご本人が自分でなんとかしなくちゃいけないですからね。
……これは極端な例ではありますが。
それゆえに、視覚障がい者の歩行訓練はその人の命を守り、安全に快適に暮らしていくために非常に重要なんですね。
歩行訓練士になるためには
歩行訓練士に限ったことではありませんが、視覚障碍者に関わる訓練士を目指す場合、専門の養成機関でカリキュラムを履修することが望ましいとされています。
訓練機関は?
訓練士養成機関は国内に2か所。大阪府大阪市にある「社会福祉法人日本ライトハウス養成部」と、埼玉県所沢市の国立リハビリテーションセンター学院視覚障害学科があります。
主に大卒者を対象とし、履修期間は2年間となります。
ただし、日本ライトハウスにおいては、視覚障がい害リハビリテーションの関連施設職員を対象とした、分割履修などの特別コースも設けているようです。
受講カリキュラム
基礎科目・専門基礎科目・専門臨床科目など、40科目以上のかなりボリューミーな内容となっています。
実技や演習では、まず受講生がアイマスクやシミュレーションゴーグルなどを装着し、視覚機能が低下した場合の不安な思いや、困難な状況を体験します。次いで指導法や技術について検証し、状況に応じた適切な支援を習得していきます。
歩行訓練士は、根気強く学ぶ姿勢や意欲が求められます。そのため、養成カリキュラムの受講にあたっては、基礎学力や指導者として適正を確認するための審査があります。
まとめ
今回は、視覚障がい者の安全で快適な生活のために必要とされる「歩行訓練士」に着目してご紹介しました。
視覚障がい者への歩行訓練は、骨折などのリハビリと異なり、生活そのものを支えるための重要な訓練となります。わたしの知っている限りでは、沖縄県にはおひとりの方のみと聞いています。現在中途で進行性の目の疾患になって、困難を覚えておられる方がたくさんいらっしゃいます。また、中途障害の場合、どこに相談してよいかわからないという方も多くいらっしゃるとか。
沖縄県においても、中途視覚障がい者のための相談・訓練施設などが充実することを期待しています。