「あー、とうとう降ってきた!早く移動しよう」と思いながらも、車椅子の積み降ろしは健常者と違い時間がかかります。傘をさすことができない雨降りは濡れてしまう事があり、特に嫌になります。また、日常生活で頻繁に行くトイレで立ったり座ったりする動作が、素早くできないもどかしさが悲しい気持ちになります。
移動(移乗)と介助(介護)について
移動・移乗は身体介護になります。介助する方法として、身体介護の基本や排泄とトイレ介助・入浴介助など、直接利用者の身体に触れて生活する上でのできないことを支援します。「移動」は現在いる場所から台所や浴室・トイレへ移ることを指し、「移乗」は車椅子利用者がベッドから車椅子や便座などへ移動することです。
介助と介護は意味が違いますが、ここでは日常生活での介助と慢性的な介助を含めて介助と言う言葉で説明し、移動(移乗)介助(介護)の行い方などを紹介したいと思います。病気や怪我・事故・高齢により歩行困難となった方の車椅子利用は多く、ベッドからの移動やトイレ便座への移動には介助サポートが必要な場合もあります。
移動介助を「移乗」と呼びます。ほんの少しずれただけで、移乗は大きな負担になります。ベッド生活が長い方になると体力や筋肉が落ちているため、介助者が力を緩めてしまい力加減を誤ると、捻挫や骨折をしてしまうことになります。そのため、介護(移乗)には十分な気配りと配慮が必要です。
介護者をベッドから車椅子へ、逆に車椅子からベッドや便座に移乗させる場合の手順として、まず車椅子のタイヤ・ブレーキ状態を確認することが大事です。空気が入っていなければ十分に入れて、ブレーキロックが両側しっかりかかるかチェックします。
車椅子への移乗は、まず起きて座ることから入ります。しっかり安定して座れることや手すりの位置がずれていないかを確認して、介助者は腰に両腕をまわし、介護される方は背中や肩に腕をまわさせてしっかりと立ち上がらせ車椅子へ座らせます。
ベッドに移乗するときは、高さが同じ位になっているか確認して調整します。車椅子をベッドに寄せてなるべく無理な力をかけないようにして、足を乗せているフットレスト(足置)をあげて、足が床に直についていることを確認します。
1人で介助する場合は正面に立ってかかえるのではなく、腰回りを両手でしっかり持って背中や腕回りに抱きつく姿勢になります。抱きかかえた状態で腰をしっかり持ち上げ、重心を預けるようにさせてベッドに移乗します。
※ポイントとして介助する方の足間に片方の足を入れ、密着して前傾姿勢に持ってくると介助者への腰負担が軽減されスムーズな移乗ができます。
移乗での注意や理解
前記で移動と介助について説明しましたが、その他にも注意や理解して欲しいことがあります。身体介護の基本や排泄とトイレ介助・入浴介助など適切なケアは介護される方の状態によって違う為、介助にはその人にあった安全な介助を心がける必要があります。
寝返りをうてない方や同じ姿勢で寝続けることで起きる身体への影響を理解し、安楽な姿勢で過ごせるような介助を行うことが求められます。
≪移動・移乗介助での基本≫
〇介助際の支え方
〇負担を少なく小さい力で安全に介助する
〇身体の摩擦を減らす
〇介助者の接地面部分(支持基底面)を動く方向に広げることを意識する
≪長時間同じ姿勢で寝ると起こりやすいこと≫
〇関節拘縮
〇血栓や手足の浮腫(むくみ)
〇褥瘡(じょくそう)
≪長時間仰臥位で寝ていると起こりやすいこと≫
〇呼吸機能の低下
〇呼吸器感染症
≪側臥位ポジショニングの重要性≫
〇身体をねじらない
〇身体とベッドマットの間を隙間なく埋める
〇身体の緊張がほぐれて一定時間安定して寝ていられる姿勢を作る
≪車椅子からトイレへの移乗≫
〇浅く座らせる
〇車椅子の位置を調整する
〇立ち上がりを介助(立てる方)
〇立つことができない方の場合は二人で介助します
〇脱衣介助
〇手すりを捕まえさせてゆっくり座らせる
〇扉やカーテンを閉めて待機します
過去に拘る車椅子生活
前記で移乗や介助について説明しましたが、その他にも病気や脊髄損傷により障がい者として車椅子生活になった方に理解して欲しいことがあります。車椅子で生活するようになると以前は当たり前のようにできたことが、できなくなるとストレスやイラツキを感じるようになることがあります。
例えばちょっとした段差やデコボコになると自力で動かすことができないことを、元気だった過去を思い出して情けなさで心が痛くなることもあると思います。受け入れたはずの現実が、困難にあうたびにフラッシュバックして過去を引きずります。
思うに若ければ受け入れは早く、歳を取ると立ち直りが遅くなっていくようです。リハビリは塞ぎ込んだマイナス思考を直し、回復の期待とデキルへ頑張り希望を持つ将来に大きく影響を与えます。
車椅子の積み降ろしは慣れるまでが大変
でかけるときは、主に車を利用します。車椅子使用者にとっては日常生活に欠かせない大事なもので、自主的な運動以外は近距離でも買い物などに車で行きます。必ず誰もが車で行くとは限らず、これは私の事ですので誤解がないように書いておきます。
日常的な車椅子生活は精神的なショックと葛藤・悩みがたくさんあったと思いますが、生きて行く為には開き直りと立ち直りが大切です。病院でベッドから車椅子への移動は最初の難問になります。
私は右手に麻痺ができたこともあり、力が入らずベッドからずり落ちました。家族の心配とリハビリの甲斐もあって現在は殆ど回復しましたが、ベッドからの移動に限らずトイレや車への乗り降りなどは慣れるまで大変でした。
最後に
長い入院生活でベッドに寝ている期間が続くと、初めてベッドから車椅子へ移る時は体の安定や筋力低下もあり不安になりますが、移動(移乗)と介助(介護)は身体への影響を理解して安心できる介助を行うことができます。やむを得ず車椅子生活を余儀なくされる方へは、現実を受け入れて頑張る努力を理解して欲しいと思います。