障害者が「一人暮らしをしたい」と思ったときに考えておいた方がいいことについてお話しします。
はじめに
何かしらの障害(軽度であれ、重度であれ)を抱えていたとしても、一人暮らしをしたい、もしくは、せざるを得ない人は大勢いると思います。
しかし、実際に一人暮らしをしようと思っても不安なことがたくさん出てきて躊躇している人もけっこういるはずです。
なので、視覚障害者となってから一人暮らしを始めた私自身の体験と調べたことを踏まえて「障害者が一人暮らしをしたいと思ったときに考えておいた方がいいこと」について話しますね。
障害者が一人暮らしをしたいと思ったときに考えておいた方がいいこと
障害者が一人暮らしをしたいと思ったときに考えておいた方がいいことは3つあります。
それは、生活費・症状・緊急事態の3つです(生活費は障害のあるなし関係ないですが)。
なぜ、この3つについて考えておいた方がいいか、その理由は以下で説明します。
生活費はどのくらいかかる?
生活費について考えるのは一人暮らしを検討するうえでは基本中の基本でしょう。
大まかな金額が想定できないと一人暮らしができるかの判断がつかないですからね。
しかし、想定した生活費が高いか安いか考えるだけじゃダメです。
現状得られる収入と想定した生活費とを比較してください。
例えば、毎月15万円の収入に対して、想定する生活費が毎月20万円だとしたら一人暮らしはできないですよね。
なので、本当に一人暮らしが可能か判断するには収入源と生活費の内訳を挙げていく必要があります。
収入源として考えられるのは次のようなものです。
- 給与(アルバイト代や事業所で働いて得らえるお金)
- 障害年金
- 仕送り(親などが援助してくれるお金)
- その他(障害年金以外で利用できる公的な援助など)
一方、生活費は
- 家賃
- 食費
- ガス代
- 電気代
- 水道代
- 通信費
- 交通費(車を運転するならガソリン代)
- 健康保険料(アルバイトやフリーターなら払うことになるでしょう)
- 遊興費(自由に使えるお金)
といったようなものが挙げられます。
私の場合、月の収入は13万円ほどとなり、生活費は次のようになります。
- 家賃・・・43000円
- 食費・・・約20000円
- ガス代・・・約3000円
- 電気代・・・約4000円
- 水道代・・・約2000円
- 通信費・・・約10000円
- 交通費・・・7000円(現在は在宅での仕事になって通勤がないのでほぼ0です)
- 健康保険料・・・約2000円(収入によって違います)
- 遊興費・・・10000円
合計すると、生活費は約10万円となります。
つまり、私の場合はギリギリ一人暮らしは可能となるわけです(本当にギリです)。
こんな感じで内訳を挙げていくと一人暮らしできるか判断しやすいのですが、収入はいくらになるか分かったとしても生活費の方は想像しにくいかと思います。
ですが、ネットで調べれば大まかな予想が可能です。
家賃なら物件情報が載っているサイトで、自身の条件に合った物件の家賃をいくつか見れば想像できます。
ガス・電気・水道代は、「一人暮らし・◯代・都道府県名」で検索をかけると地域ごとの一人暮らしをした際の平均額について書いてある記事がいくつか見つかるので、それらを一つの目安としましょう。
食費も同様に、「一人暮らし・食費・都道府県名」で検索すれば平均額が調べられます。
ただ、人によって食べる量も違えば、料理をする・しないがありますよね。
ちなみに、私はほぼ料理をしません。
というよりも、できません(米を研ぐくらいです)。
なので、おかずやみそ汁を冷凍食品や即席のものですませています。
私と同じような感じでいいのであれば、スーパーで冷凍食品などの内容量(個数とか)
をチェックしてください。
例えば、1袋24食入り400円の即席みそ汁を買うとしましょう。
1日3食みそ汁を飲むのであれば、
24÷3となり、
1袋で8日分持つ計算になります。
では、1カ月で何袋必要になるかというと、
30÷8で
4袋必要となり、1カ月のみそ汁代は
400×4で
1600円となります。
このような形で計算していくと1カ月の食費が見えてきます。
料理をする人なら、購入した食材で何食分作れるか考えるといいかもしれません。
通信費は、現在使用しているスマホの利用料金にネット回線(光回線とかのことです)の利用料金がプラスされる形になるかと思われます。
なので、通信費はスマホの料金プランの確認とネット回線の利用料金を調べれば算出できます。
ただ、物件によってはネット環境が整えられていて家賃に利用料金が含まれている場合もあります。
交通費は、通勤や通院などで電車やバスを利用するなら求めやすいでしょう。
住みたい物件と目的地(会社や病院など)までの往復の利用料金を調べ、通う日数をかけ合わせれば必要最低限の交通費が導き出せます。
そうでない場合は、自由に使えるお金に余力を持っておいて交通費に充てましょう。
あと、健康保険料は住む市区町村と収入が変わらなければ金額はそのままですが、収入が増えれば増えますし、市区町村が変われば収入が同じでも金額が異なります。
それぞれの金額が想定できたら、あとはそれらを合計すれば想定される1カ月の生活費となります。
このように文字で説明されると手間がかかるように思われるかもしれませんが、意外とやってみると楽しいので、ぜひ、想定される生活費を計算してみてください。
軽い症状じゃなきゃダメ?
障害者が一人暮らしをしたいと考えたとき、症状の程度は見過ごせないですよね。
ただ、この点について考える場合、身体障害と精神障害とで分けて考える必要があります。
早い話が、身体障害の場合は障害の程度を考慮したうえで工夫をすれば一人暮らしは可能、精神障害の場合は症状が落ち着かない限りは難しいとなります。
私は視覚障害者で、障害手帳の等級は2級です。
この情報だけだと重度の視覚障害だと思いますよね?
実際、周辺の視野がほとんど欠損しているので重度であるのは間違いありません。
しかし、幸いメガネをかければ両目ともに視力が調子のいいときで0.9ほどあります。
つまり、見える範囲は狭いものの、その範囲内で物はハッキリ見えているのです。
なので、一人で生活していても大きな支障を感じたことはありません。
とはいっても、視野が狭いので物を見落とすことが多々あります。
ですから、自宅では極力物の配置を変えないようにしています。
配置を覚えれば物を見落とすことも減りますし、見落としたり見失ったりしたとしても物の位置をだいたい予想できます。
あと、私は視野が狭いだけでなく、暗い場所で物が見にくいといった症状もあります。
なので、夜に買い物に行くことはほとんどせず(行くとしても近くのコンビニくらい)、明るいうちにすませるようにしています。
それから、物件選びにしても視野が狭く、暗いと物が見にくいので慣れない土地の地理を覚えるのは難しいし、ストレスが溜まると考え、今住んでいるアパートを選びました。
理由は単純で、前に家族と住んでいたアパートの近所だったからです。
近所なら改めて地理を覚える必要もないですし、生活環境もほとんど変わりません(ただの面倒くさがりな気もしますが…)。
おまけに、そこそこ歩きはしますが、徒歩圏内(自分の中でですが)にスーパーや飲食店もあります。
視野が狭いと分かってからは車の運転も止めたので、歩いて行ける範囲にスーパーがあるのも物件を選ぶ条件の一つでしたね。
このように症状を分析し、それに合った工夫をすれば、一人で生活することが可能な場合もあります。
「工夫したとしても一人暮らしは難しい」
と思ったとしても心配はいりません。
ヘルパーを利用するといった方法もあります。
障害の種類やヘルパーを利用する本人のニーズ、地域によって違いはありますが、ヘルパーには次のようなことが依頼できます。
- 家事(掃除・料理・買い物など)
- 役所の手続き(代筆・資料の読み上げ・押印など)
- 家に届いた郵便物の確認
- 食事やトイレ・入浴などの介助
そして、ヘルパーを利用するための大まかな流れはこんな感じです。
- 相談事業所を見つける
- 見つけた相談事業所の相談員と一緒にヘルパー利用の申請を各市区町村の障害福祉担当窓口にする
- 実態調査(福祉課の人、相談員を交え、どんな支援が必要なのかの聞き取り)
- 判定
- 支援可能時間数の通知・受給者証の受け取り(送付されます)
- 利用開始(ただし、利用開始前に相談員、もしくは利用者自身で利用計画を作成します)
ちなみに、実態調査では、視覚障害者の場合だと「一人で入浴できるか?」「自身で着替えはできるか?」「計算はできるか?」といったようなことを淡々と質問されるそうです。
これ、馬鹿にしているわけではなく、何ができるかの確認をしているので丁寧に答えてください(そうすると、きっと心も穏やかになるはず)。
そういえば、私もA型事業所の利用申請か何かのとき、同じような質問をされた覚えがあるので、定番なんでしょうね。
それから、ヘルパーの利用料なのですが、所得に応じて異なります。
ただし、所得が非課税だったり、生活保護を受けていたりする場合、利用料はゼロです。
とはいっても、
「申請するのも難しい、でも、一人暮らしをしたい(しなければならない)」
という人もいるでしょう。
そんなときは、全ての都道府県にあるわけではないですが各地にある「自立生活センター」を訪ねてみるといいでしょう。
ここは障害者が一人暮らしできるようにサポートしてくれる機関で、利用できる制度の情報提供や一人暮らしをできるようにするプログラムの提供などをしています。
このように工夫次第で障害があっても一人暮らしは可能なのですが、精神障害の場合は、まず一人暮らしができる状態なのかの判断が必要なようです。
調べた限りになりますが、「症状が安定していること」と「服薬がちゃんとできること」が外せない条件として挙げられています。
加えて、条件を満たしているか自己判断するのは禁物なようです。
あくまで、医師などに条件を満たしているか相談し、一人暮らしをしても問題ないと判断された場合に一人暮らしが可能となるみたいです。
それから、精神障害の場合もヘルパーが利用できるので、身体障害の場合と同じように「ヘルパーの助けを借りたうえでの一人暮らし」を選択肢に入れておくのもいいでしょう。
急に助けが必要なときは?
身体障害・精神障害ともに薬の副作用や症状の悪化によって急に助けが必要な事態は十分に起こりえます。
一人暮らしで何の備えもないまま、そのような状態に陥ると大変危険です。
ですから、急に助けが必要になったときの対策を考えておきましょう。
個人的には次の2つの対策が有効ではないかと思います。
- 公的な制度の利用
- サポートしてくれる人とともに独自のルールを作る
公的な制度としては、役所ごとに多少名称は異なりますが、「緊急通報システム・福祉電話」というものがあります。
障害者に対応するのは緊急通報システムの方になりますが、身体障害者を対象としているのがほとんどのようです。
自宅に通報装置(送信機と通報用のボタン)を設置し、緊急時にボタンを押せば看護師や
緊急通報協力員などが駆けつけるだけでなく、必要となれば救急車も出動するシステムです。
ただし、役所ごとに名称が異なるようにホームページに記載されているシステムの内容も微妙に異なります(対象となる障害の程度も「重度」としているところもあれば、手帳1・2級としているところもあります)。
なので、利用にあたっては役所で具体的な内容を確認してください。
ちなみに、福祉電話は主に高齢者を対象とした安否や健康状態を確認するための電話です。
ですが、こちらも役所ごとに微妙な違いがあり、身体障害者を対象に含む場合もあります。
また、利用料金や設置費用がかかります。
そのため、こちらも要確認です。
これらが利用できれば心強いのですが、精神障害者の方は利用できない可能性が高い印象ですし、利用できたとしても緊急ボタンを押せない状態になることも十分想定できます。
その点を考えると、サポートしてくれる人とともに独自のルールを作る必要があるかと思います。
例えば、「毎日決まった時間に電話連絡をする」といったルールを作ったとしましょう。
このルールのもと、決まった時間に連絡もなく、サポートする人が電話をかけても応答がない場合は通常と違うことが起きている可能性があると判断でき、駆けつけることができます。
このようにサポートしてくれる人と独自のルールを作っておけば、自分自身ではどうしようもない状態に陥ったとても助けが来る確率が高まります。
正直、私自身この記事を書くまで緊急事態に備えるということは全く考えていませんでした。ですから、この段落は調べたうえで「自分ならこうする」という私見を書きました。
ちょっとした参考にでもなれば幸いです。
「できない」と決めつけない
ここまでは、障害者が一人暮らしをする前提で話を進めてきました。
しかし、中には「障害を持っている自分が一人暮らしなんてできない」とあきらめている人もいるでしょう。
確かに障害者が一人暮らしをするのは難しい側面もありますが、決してできないわけではありません。
といわれても、そもそも障害者が物件を借りられるのか疑問や不安を持っているかと思います。
結論から言えば、借りられます。
私の場合は、視覚障害者であることは伝えずに契約をしました。
ですが、勤務先として今勤めているA型事業所を伝えました。
なので、不動産会社はちょっと調べれば、私が障害者であることは推測できたと思います。
にもかかわらず、私は物件を借りることができました。
たまたまだったのかもしれませんが、障害者であることを伝えなくても物件を借りられる場合もあるのです。
ただ、この場合、バレたら退去させられるのではないかといった不安が時々頭をよぎりますし、実際そうなる可能性も否定はできません。
ですから、後々不都合が起きても大丈夫な人は、障害者であることを伝えずに物件探しをしても問題ないでしょう。
そうでない人(これが大半だと思いますが)や伝えずに物件を探しているがなかなか借りられない人は、障害者であることをオープンにすることをおすすめします。
でも、一人で不動産会社に行って、「障害者である」と伝えて門前払いをされても仕方がないので、サポートしてくれる人を見つけておきましょう(必ず門前払いされるというわけではないですよ)。
相談員や先ほど話した自立生活センターの人にサポートをお願いするといいのではないかと思います。
サポートしてくれる人がいれば、不動産会社に対して自身の障害、必要な配慮など諸々の説明がスムーズにいくでしょうし、大家も安心して貸すことができるでしょう。
なにより、「障害者とバレないか」といったような不安を抱えなくてすみます。
このように障害者であることを伝える・伝えないの違いはありますが、物件を借りる方法はあります。
ですから、最初から「できない」と決めつけるのではなくて、「どうしたらできるか」を考え、自身に合った方法で行動してみてください。
そして、その行動の結果を見てから、できる・できないを判断しても遅くはないはずです。
さいごに
「障害者が一人暮らしをしたいと思ったときに考えておいた方がいいこと」について話してきましたが、大事なのは「一人暮らしをする」という前提で行動することだと思います。
「一人暮らしがしたい」という気持ちがあるのに、できる・できないで悩んでいても仕方ないですし、気持ちが晴れることもないでしょう。
「どうやったら一人暮らしができるか」を考え、行動すれば、自ずと納得いく結果がついてくるはずです。
ですから、難しいかもしれませんが、悩むのではなく考え、行動を起こしてみてください。